私を変えた、5人の言葉

露木 晋也さん 
COMFY PLACE代表

今や押しも押されもせぬ人気サロン「uka」で25年間勤務し、取締役まで務めた露木晋也さん。今年8月に独立して自らの店を構え、新たなステージへと踏み出しました。そんな露木さんの美容師人生に影響を与えた言葉とは? 露木さんが心に留める、5人の言葉を紹介します。

 


「鏡の前はステージだからな」(uka創業者・向原一義さん)

今年6月、ukaの創業者である向原先生がお亡くなりになりました。学校を卒業してから25年間ukaに在籍していた僕にとっては、自分が歩んできた美容師人生の大元になっているのはまぎれもなく先生でした。

先生から学んだことはたくさんありますが、一番好きだったのがこの言葉です。舞台役者がステージで演技を披露するときが本番なのと同じように、自分たちは鏡の前が本番だから、それまでに鍛錬しておきなさいという教えでした。つまり、お客様で練習するなということ。そういったことはお客様の見えないところでやって、お客様と対するときは常にベストなものをご提供しないといけない。当たり前のことのようですが、入社間もない僕にとってはすごく心に響くものでした。

また、「ステージ」と表現されていたのには、こんな意味もあります。
「サロンは360度至るところに鏡があるから、自分のたたずまいや所作が常にいろいろな人に見られているということを意識しないといけない。それが自分を高めていくことになるし、成長にもつながる。その成長は、結果としてお客様に還元できることになるんだよ」

先生の言葉を日常の中でどう生かしていくかは、先輩方がかみ砕いて教えてくれました。たとえば、私服で仕事をしているとどうしても自分の好みが前面に出てしまいがちになります。でも「『お客様から見たらどうか?』ということも意識しないといけない」と言われました。店の雰囲気やその中の自分の立場、そういうものも含めて “自分”というキャラクターをどう演出していくか、服装ひとつとっても考えるべきだ、と。だから、自分に合っていない服で行ったときは、先輩たちから容赦なくダメ出しされましたよ(笑)。

 

「お客様目線でいなさい」(uka代表・渡邉季穂さん)

これは、渡邉さんが常々言っていた言葉です。代表である渡邉さんがどう考えるかをずっと意識しながらやってきたつもりだったのですが、自分はまだまだだなと思わされたエピソードがあります。

今から2年ほど前ですが、その頃の僕はukaの取締役として経営的なところにも携わっていました。その中で、紙の雑誌をやめてタブレットを使った電子書籍の導入を検討していました。コストカットはもちろんのこと、紙の雑誌だとお出ししたお客様の年齢や趣味趣向とのミスマッチがクレームにつながることも少なからずあったからです。電子書籍にすれば、お客様ご自身が読みたい雑誌を選べるので、そういった問題も減らせると思ったんです。

ところが渡邉さんは、「デジタルデトックスと言われている中で、私たちが紙の媒体をやめてどうするの」と反対。「これだけ毎日デジタルにさらされている状況で、紙の媒体を読むというのがどれだけ貴重なことかを考えなければいけない」と言うのです。確かに今は何でもスマホやパソコンで見て調べてという時代で、紙の雑誌を読む機会が減ってきています。そこで改めて自分でも紙の雑誌を見てみましたが、紙だと自分の興味のないところでもパラパラとページをめくる中でついつい読んじゃって、新たな発見があったりするんですよね。何より目が疲れない! 紙の良さを再認識して、結果電子書籍の導入は見送りました。

「お客様目線」とはどういうことかと考えたときに、「電子書籍は便利だけどうちはやらないんですよ。なぜなら…」と自分たちのスタンスをしっかりと言えるのは、すごく大切だと思いました。今、自分の店でも紙の雑誌を置いていますが、「なぜ紙なの?」と聞かれたときに、はっきりと理由を言えるのは渡邉さんのおかげだと思っています。

ちなみに、お客様とのミスマッチの問題に対しては、uka独自の雑誌マトリックスを作ったり、アシスタント入社時に雑誌1誌1誌ごとの特徴を教える社員教育を行うことで対処しました。

 

「誰にだって技術があるんだよ」(uka社長・渡邉弘幸さん)

渡邉さんが入社してきたのは10年前。それまでは、美容師やネイリストが経営的なところも行っていました。そこに博報堂で営業部長をしていたビジネスマンの渡邉さんがやってきて、どんどんオフィスが拡大しました。経理、広報、制作、商品開発、人事、総務といったスタッフも二十数名まで増えました。こんなにバックオフィスが充実したサロンも珍しいと思います。

最初の頃、慣れない環境に「僕たちは技術者だから」この人たちとは違うんだ、と境界線を引いてしまっているところがありました。いい意味で言うと、自分の仕事は特別だと位置づけているから。でも逆に言えば、「技術者だからわかりません」と、ことあるごとに言い訳にしていたような部分がありました。

そんな時、渡邉さんから「営業には営業の技術があるし、経理には経理の技術がある、経営には経営の技術があるんだよ。美容師の仕事はカットやカラーが終わればすぐその成果が目に見えるから技術者だって言うけど、僕たちだって同じなんだよ」と言われました。目から鱗でした。

実は、技術者だと言い切るのって劣等感からというのも多少あったんです。頭脳労働者と僕たちは別物だと思っているところがあったんですが、そうではないと思えたんです。美容師という職業のステータスが自分の中でちょっと変わったと同時に、いろいろな人の仕事を見るうえで幅が広がりました。

職業柄、世の中を動かしているようなすごい人と仕事をすることもあるんですが、それまでは自分がどういうスタンスでいるべきか悩むこともあったんです。でも、どんな仕事の人とも同等というふうに感じられるようになりました。当時自分が現場を離れることができたのも、そういうことからかなと思っています。

 

「ここまでになると思ってなかったら、やれなかったよ」(お客様)

実は、僕アイドルオタクなんです(笑)。とあるグループのファンで、お客様にもよくその話をしていました。すると、仕事でそのグループに関わっているお客様もたくさんいて、その中に立ち上げのときに結構面倒を見たというお客様がいらっしゃって。

当時そのグループは人気絶頂で、初期からずっと応援していた僕は、何気なく「こんなになるとは思わなかったですよね」と言ったんです。それに対してお客様は、「いやいや、ここまでになると思ってなかったら、やれなかったよ」とおっしゃいました。

僕の言葉も本当に浅はかだったと思うんですが、なるほどと思いました。これくらい売り上げたい、独立したいなど、目標に向かって日々やっているつもりでも、達成したときにじゃあ次にどこへ向かうんだみたいなちゃんとした自分のビジョンがないと、そこにはなかなかたどりつかないんだなと思わされました。ukaにしても、ビジョンが明確だったから今のような拡大につながったんだと思います。ukaの展開を間近で見てきたわけですが、お客様の話を聞いて「そういうことか」と合点がいきました。

今、自分の店を持ってのビジョンとしては、自分の目の届く最大値でお客様に喜んでもらうこと。だから、最初は1席くらいのもっと小さい店でもいいと思っていたんですが、できる限り多くのお客様に喜んでほしいので5席にしました。まずはこの5席をお客様でいっぱいにしたいですね。

 

「コーヒー屋じゃないんだから、不味いコーヒーを出すな」(angle ank. 岩渕健二さん)

岩渕さんは、ukaの前身EXCeL時代の初代青山店の店長で、僕の師匠のような人です。すっごく上手くて、それからめちゃくちゃ厳しい人でした。

当時、お客様へお出しするコーヒーはポットに作り置きしていたんですが、時間が経つとどんどん煮詰まっていきます。それを岩渕さんはちょこちょこ味見してチェックしていました。そんな時に言われたのがこの言葉です。

どういう意味なんだろうと最初はまったくピンときませんでしたが、怖くて「はい、わかりました!」と言ってしまいました(笑)。それからずーっと僕なりに考えて出した答えが、「もしコーヒー屋さんであれば、不味いコーヒーを出されたら、お客様は店に来るのを自らの意思でやめることができる。でも、美容室だとコーヒーが不味いからといって来ないとは言えない。お客様が頼んでいないのものだからこそ、美味しいものを出せ」ということかなと思いました。

この言葉は自分の中にすごく残っていて、今の店でもお客様に楽しんでもらえるようにと、季節ごとにお茶を変えてお出ししています。サービスでお出しするものだからこそ、喜んでいただくとすごくうれしいです。

ちなみに、自分の考えが正しかったのかは、岩渕さんに答え合わせできていません。でも、ずっと岩渕さんのアシスタントについていて、ある時岩渕さんから「わかってきたね」と言われたことがあって、自分の解釈は間違っていなかったのかなと思いました。

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